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【水ビジネスとは?②】世界の水問題と日本と世界の取り組みについて解説!

学生向け(業界分析)
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水不足や水質汚染など、世界では水に関する様々な問題が深刻化しています。こうした水問題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現に欠かせないのが「水ビジネス」です。日本は高度な水処理技術や水道事業運営のノウハウを有しており、水ビジネスのリーディングカントリーとして世界に貢献していくことが期待されています。

本稿では、提供いただいた報告書に基づき、水ビジネスの概要、世界の市場規模と日本企業の海外展開状況、そして今後の展望について詳しく解説していきます。

1. 水ビジネスとは何か?

1-1. 水ビジネスの定義と範囲

水ビジネスとは、水資源の開発、供給、管理、処理など、水に関わるあらゆる事業活動を指します。具体的には、以下のような幅広い分野が含まれます。

  • 上水道事業: 飲料水を家庭や事業所に供給する事業(浄水処理、水道管敷設、水道メーター設置など)
  • 下水道事業: 生活排水や工場排水を処理して河川や海に放流する事業(下水処理、下水道管敷設など)
  • 産業用水事業: 工場や発電所などに必要な水を供給する事業(水処理、排水処理など)
  • 海水淡水化事業: 海水から飲料水を製造する事業
  • 水資源管理: ダム管理、地下水保全など、水資源を総合的に管理する事業
  • 水処理薬品・装置の製造・販売: 浄水処理や排水処理に必要な薬品や装置を製造・販売する事業

1-2. 海外水ビジネス市場の現状

世界の水ビジネス市場規模(日本を除く)は、2019年には71兆8,691億円に上り、拡大傾向にあります。2025年には84.4兆円、2030年には110兆円を超えると見込まれる成長市場です。

地域別に見ると、2019年は北米が最大で20.8兆円、世界市場に占めるシェアは29.0%です。次いで、**欧州の19兆円(同26.5%)、中国の13.5兆円(同18.7%)**と続きます。それぞれ10兆円を超える市場規模をもつこれら3地域により、海外水ビジネス市場の7割以上が占められています。

図表1. 地域別市場規模(2019年)

(出所) WaterData (Global Water Intelligence) より富士経済作成

2. なぜ今水ビジネスが注目されているのか?

2-1. 世界の国・都市における水ビジネスのポテンシャル

世界の水ビジネス市場は、地域や国によって異なる特性とポテンシャルを持っています。ここでは、報告書で取り上げられている主要国における水ビジネスのポテンシャルを、1人当たりGDPと上水道普及率の相関から分析した結果を踏まえて紹介します。

●米国(先進的市場)

  • 上水道普及率: 88%
  • 下水道普及率:83%
  • 社会インフラの劣化・更新需要: 先進技術の売込や更新需要、DXなどの需要が期待できる。
  • 高付加価値製品の需要: 膜、耐震管、海水淡水化設備、ICTシステム等の高付加価値製品の需要が見込まれる。
  • 課題: 新技術導入の障壁となっている既存の法制度の改善要求、実証機会の拡大支援を通じた実績の蓄積が必要。
  • これから:カリフォルニアの干ばつにより、下水の再生利用が進められている。

●イギリス(先進的市場)

  • 上水道普及率:99%
  • 下水道普及率:98%
  • 老朽化インフラの更新需要: 老朽化した水道管の破裂や漏水の問題が深刻化しており、更新需要が高まっている。
  • 規制当局による厳しい監視: 規制当局Ofwatによる水道事業への監視が厳しく、効率的な事業運営が求められる。

●UAE(新興市場)

  • 上水道普及率:100%
  • 下水道普及率:94%
  • PPP整備と需要拡大: 水道普及率の向上、PPP整備が進む一方で、経済成長に伴い水需要が急拡大している。
  • 市場競争の激化: 海外企業の進出が盛んであり、市場競争も激化している。
  • 課題: 本邦技術の優位性と現地ニーズとの適合性を意識した案件形成、本邦技術に理解を示す現地オペレーター等の育成、政府間対話を通じた積極的な売込が必要。
  • これから:海水淡水化設備において、蒸発法から膜法への更新が計画、排水の再利用を95%目標

●インド(新興市場)

  • 高い成長性: 人口増加と経済発展に伴い、水インフラ整備の需要が急増しており、市場は高い成長性を示している。
  • PPPによる水インフラ整備: PPP(官民連携)による水インフラ整備が積極的に推進されており、日本企業の参入機会も多い。
  • 水不足への対策: 水不足が深刻化しており、水資源管理や海水淡水化などの技術が求められている。
  • 課題: 本邦技術の優位性と現地ニーズとの適合性を意識した案件形成、本邦技術に理解を示す現地オペレーター等の育成、政府間対話を通じた積極的な売込が必要。
  • これから:再生水の注目度が高くZLDや汚泥の消化ガス発電案件が活発化

●中国(新興市場)

  • 上水道普及率:86%
  • 下水道普及率:56%
  • 巨大な市場規模: 巨大な人口と経済規模を背景に、世界最大級の水ビジネス市場を形成している。
  • 政府主導の積極的な水処理政策: 水質汚染防止行動計画(水十条)や第13次5ヵ年計画など、政府主導で積極的な水処理政策が推進されている。
  • 下水道の民営化: 下水道の民営化が進んでおり、日本企業の参入機会が拡大している。
  • 課題: 本邦技術の優位性と現地ニーズとの適合性を意識した案件形成、本邦技術に理解を示す現地オペレーター等の育成、政府間対話を通じた積極的な売込が必要。
  • これから:中国全体では下水道の新設案件に伴い、汚泥処理ニーズが顕在化
    • 下水道普及率も9割を超えており、更新・増設・高性能化案件が中心

3. 本邦企業の海外水ビジネス展開状況

3-1. 地域別にみた日本企業の売上高と占有率(2019年度)

2019年度における日本企業の海外水ビジネス売上高は3,473億円でした。 これは2016年度と比較すると595億円も増加しており、官民共同での取り組みや各種施策の効果が現れていると言えるでしょう。しかし、世界市場全体に占める日本企業の占有率は、わずか0.48%にとどまっており、さらなる市場開拓の余地があると考えられます。

出典:水ビジネス海外展開施策の10年の振り返りと今後の展開の方向性に関する調査(一部改変)

地域別に見ると、中国を除くアジア向けが1,527億円となり、全体のうち44.0%を占めました。次いで北米483億円(13.9%)、欧州252億円(7.3%)、中国240億円(6.9%)の順となっています。

図表3. 地域別にみた日本企業の売上高(2019年度)

出典:アンケート調査結果より富士経済作成(一部改変)

3-2. 取扱製品・技術・サービス別にみた日本企業の売上高

日本企業の海外水ビジネス売上高を取扱製品・技術・サービス別にみると、国内外ともに「薬品・ろ過材・管材・機器・装置」の売上高が最も大きい比率を占めています。
赤枠で囲っている数字は売上トップ3となっています。2019年時点で薬品・ろ過材・管材・機器・装置は、国内では5250億円、海外では1293億円といづれもトップとなっています。

日本はこれらの事業を中心に海外展開をしていくと予想されます。

図表4. 取扱製品・技術・サービス別にみた日本企業の売上高(2019年度)

出典:アンケート調査結果より富士経済作成

3-3. 地域別・事業分野別の注力度

日本企業が海外で最も注力している事業分野は、アジアの「上水道」、「産業用水」および「下水道」です。同地域は本邦企業の参入が進み、自治体の海外展開も進展しています。

また、「北米」及び「中国」の「下水道」への注力度が高いことも注目すべき点です。日本と同様に、更新需要が盛んであり、日本の技術の優位性が活かせる点も市場の魅力であるとみられます。

図表5. 地域別・事業分野別の注力度

オレンジ:非常に注力する,グリーン:注力する,みずいろ:あまり注力しない

4. 水ビジネスの現状と今後の展望

4-1. 日本が優位性を有する技術の海外展開〜グッドプラクティス・成功事例〜

日本企業は、高度な水処理技術や水道事業運営のノウハウを活かし、海外で多くの成功事例を積み重ねています。以下に、報告書で紹介されている事例を2つ紹介します。

①フィリピンにおける浄水場建設

JFEエンジニアリングは、フィリピンで最大の浄水場の更新工事を受注しました。現地企業との共同企業体を設立し、デザインビルド方式を採用することで、柔軟な設計と施工を実現しました。

図表6. ラメサ浄水場完成予想図

(出典) JFEエンジニアリング

②カンボジアにおける水道事業参入

神鋼環境ソリューションは、カンボジア民間企業と共同出資で現地法人を設立し、プノンペン都の2区で独占水道事業権を取得しました。水道設備のEPC、試運転業務、原水取水から料金徴収までを一貫して請け負うことで、安定的な収益を確保しています。また、現地水道公社から人材を採用することで、技術移転を促進しています。

図表7. 神鋼環境ソリューションのカンボジアにおける水道事業スキーム

(出典) 企業ヒアリングより富士経済作成

4-2. 日本が優位性を有する技術の海外展開〜グッドプラクティス・国内での実績〜

海外水ビジネス市場のボリュームゾーンは、設備の維持管理市場です。日本では、PFI法の整備以降、上下水道事業においてもPFIによる整備やDBO、DBなど、官民連携が推進されてきました。これらの官民連携事業において、新技術・新製品を活用する事例も増えています。

例えば、函館市では、赤川高区浄水場プラント設備更新整備等事業において、日立製作所が開発したO&M支援デジタルソリューション(IoTプラットフォーム「Lumada」)を導入しています。AIやIoTを活用し、水道施設のデータ収集・可視化、運用・保全業務支援システムを構築することで、水道事業の効率化と高度化を実現しています。

4-3. 海外展開を活発化するための官民連携〜自治体の取組と期待される役割〜

自治体は、水道事業体として長年培ってきた経験やノウハウを活かし、水ビジネスの海外展開において重要な役割を担っています。具体的には、以下の3点が期待されています。

  1. 国際協力を通じて相手国政府とのビジネス基盤を構築する:
    JICAなどのスキームを活用した技術協力や、独自事業としての技術交流や職員派遣などを通じて、相手国政府との信頼関係を築き、ビジネス展開の基盤を構築する。
  2. 現地課題やニーズの民間企業への共有:
    現地で得られた情報やニーズを民間企業に共有することで、日本企業の海外展開を支援する。
  3. 国内での機会の提供:
    民間企業が海外展開にあたって十分な経験・実績を積むための機会を提供する。例えば、DBOやDBなどの官民連携事業に積極的に民間企業を参画させることで、海外展開に必要なノウハウを習得させる。

5. 水ビジネスの海外展開に向けた今後の方向性

日本企業が海外水ビジネス市場でさらにプレゼンスを高めていくためには、以下の4点に取り組むことが重要です。

  1. 相手国における水事業やインフラ整備に関する法制度の整備支援:
    日本の経験を共有し、相手国における法制度の確立を支援することで、水ビジネスが発展しやすい環境を整備する。
  2. 資金調達を含む経営基盤の確立に向けた事業提案:
    資金調達に係るノウハウや経験を相手国政府・自治体に共有し、PPP/PFI事業などを含む事業提案を行うことで、相手国の財政状況を考慮した持続可能な事業スキームを構築する。
  3. 現地との協創、人材育成を通じた継続的関与:
    現地企業とのパートナーシップ構築、人材育成を通じて、長期的な信頼関係を構築し、相互に利益を享受できるWin-Winの関係を築く。
  4. 持続可能な公共サービスに対する理解促進:
    公共サービスとしての、上下水道の重要性に対する理解を啓発するとともに、受益者負担の原則の確立を支援することで、水事業の持続可能性を確保する。

日本政府は、「インフラシステム海外展開戦略2025」において、「CORE JAPAN」という概念を提唱しています。これは、“コアとなる技術・価値やプロジェクトの主導権を確保しつつ、グローバルパートナーシップを実現”するという考え方です。

水ビジネスにおいてCORE JAPANを確立するためには、現地事情に即したソリューションの提供と、現地プレーヤーとソフト・ハード両面で相互補完が可能なグローバルパートナーシップの構築が重要となります。

図表8. CORE JAPANを踏まえた今後の方向性

出典: 水ビジネスの海外展開に関する有識者研究会での議論より富士経済作成

水ビジネスは、世界の水問題の解決に貢献し、持続可能な社会の実現に欠かせない重要な産業です。日本は、高い技術力と豊富な経験を活かし、CORE JAPANを確立することで、世界の水ビジネス市場をリードしていくことが期待されます。

参考文献

  • 増田正直「中水道についての検討」『水利科学』第13巻第3号、水利科学研究所、1969年8月、39-56頁 https://tinyurl.com/28h8pb6p(参照2024-08-23)
  • 経済産業省 “令和2年度「質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業」
    水ビジネス海外展開施策の10年の振り返りと今後の展開の方向性に関する調査” 2021年3月22日 https://tinyurl.com/24vdchup(参照2024-08-23)
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