人間の体重の50-70%は水でできていることは皆さんは知っていると思います。 人間だけでなく地球上の生物にとっても大切な水ですが、地球上に存在する水の中で、使用できる水はわずか0.01%だそうです。
日本は水に恵まれており、そこまで水不足になることは少ないですが、世界では水不足に陥っている国が存在します。 今回はその水不足を救う業界、水ビジネスを分析しました。
業界の動向や日本の事例などを紹介しているので、ぜひ最後までご覧下さい。
水ビジネスとは
「水ビジネス」と聞いて怪しいと思った方はいないでしょうか。「この水を使って野菜を洗うと毒素が抜ける物質を売っているのかな?」などそんなことを思う方もいるかもしれません。しかし、そのような怪しいビジネスではなく「水ビジネス」は、れっきとした市場です!
では水ビジネスとは何か。 水ビジネスとは、生活や産業に必要な水に関連するビジネスの総称です。
具体的には、
- 上水道供給
- 下水処理
- 工業用水供給
- 水源開発
- 水の再利用
- 海水の淡水化
などが含まれます。
私たちの生活や産業を支える「水」に関わるビジネスは、実は幅広い分野に及んでいるのです。
市場規模
日本を除く世界の水ビジネスの市場規模は2025年には、84.4兆円、2030年には112.5兆円を超える見込みです。地域別で世界の市場規模を考えると、2025年には欧州、北米、中国だけで68%を超え、2030年にはその3つの地域だけで、市場規模の割合は88%を超えると予想されています。また、経済協力開発機構(OECD)の調査レポートによると、「今後2030年のインフラ投資予測で水分野の投資額は通信、水道、道路、電力分野を上回る」そうです。今後世界で最も投資が加速するのが、水インフラということになります。
水ビジネスが注目される背景・ポテンシャル
では今なぜ水ビジネスが注目されているのでしょうか。以下の要因が挙げられます。
世界中の水不足の深刻化と水インフラの老朽化です。
世界中の水不足の深刻化
世界銀行のセラゲルディン元副総裁は「21世紀は水の世紀になる」と予言しました。21世紀に入ってから24年たった今も世界中の国は水不足を解消しようとしています。しかし、水不足が解決する見込みはまだありません。世界中の多くの地域では「水ストレス」という状況にあります。
水ストレスとは「水資源の需要に対して供給が追い付いていない状態のこと」を言います。数値で表すと一年間に一人が使うことができる水の量が1,700m3を下回る状態のことです。
現在では地球の人口の40%に当たる36億人が水ストレスにさらされています。食べ物を作るためにも水は欠かせません。そしてこれからは食料不足よりも水不足の方が深刻な課題となりそうです。
水インフラの老朽化
また、水インフラなどの老朽化問題もあります。2018年時点で、水道管の老朽化率は17.6%と言われています。このままの老朽化が進んでいくと日本全国の水道管を更新するためには140年ほどかかるそうです。また、水道管の更新率が年々減少しており、平成13年の管路更新率は1.54%だったのに対し、令和3年では0.64%となっています。更新率を上げていくためには新技術の開発と導入が必要となってきます。
解決策とその企業
世界中の水不足の解決に尽力している国内と国外の水ビジネスの企業を紹介していきます。
国内主要企業
日立製鉄所
水処理プラントメーカーです。日立プラントテクノロジーズは2013年に日立製鉄所に吸収合併されたのですが、今までのノウハウとITを生かして「インテリジェントウォーターシステム」を実現し、水環境の改善に貢献しています。
「インテリジェントウォーターシステム」とはクラウドコンピュータシステムを利用して水資源を統合的に管理・運営するシステムのことです。また海水淡水化の技術にいち早く取り組んでおり海外でもその技術は取り入れられています。
現在は、海洋深層水を活用した海水淡水化の開発も進められており、水資源管理と再利用に力を入れています。
また、AIによって設備状態を診断する手法の開発にも注力しています。
水ing
こちらも水処理プラントメーカーです。荏原製鉄所と三菱商事、日揮の合弁企業です。荏原製鉄所のエンジニアリング力、三菱商事の販売網、日揮のプロジェクトマネジメント力を併せ持った水処理専門企業となりました。国内外では水処理施設の建設・運転・維持管理などの展開をしています。維持管理では全国に約300か所の拠点があり、省エネに配慮した機器の導入や機器のランニングコストを最小限にした運転管理の技術を提供しています。また広島県では「水みらい広島」を設立し、官民が連携して事業「PPP(Public Private Pertnership)」も取り組んでいます。
メタウォーター
2008年にNGK水環境システムズと富士電機水環境システムズが合併した水専門の総合メーカーです。セラミック膜をはじめ、オゾン処理装置、汚泥処理技術などで国内外で活躍しています。また、食中毒の原因菌を除去できる「セラミック膜ろ過システム」や異臭を分解する「オゾナイザ」など水の安全性を高めることができる製品に力を入れています。「機械+電気+維持管理+ICT」によって水インフラの市場を展開する計画です。
またPPP事業についても受託実績とサービス拠点を全国に展開しています。
膜メーカー
日本が強みを発揮できるメーカーが「膜メーカー」です。水処理で使われる膜は「MF膜・UF膜・NF膜・RO膜」の4種類です。その中でRO膜は海水淡水化、生活用水、工業用水の水処理に多く採用されています。しかし、RO膜は技術的に製造がむずかしく、世界市場では日本企業が5割を占めています。
東レ:海水淡水用RO膜メーカーであり、すべての膜を自社で生産できます。上水道関連の企業と連携しエンジニアリングで海外進出を目指しています。
日東電工:水関連コンサルの「ハイドロノーティクス」を傘下に置いています。低エネルギー用の膜や大流量向けの膜を開発し、ハイドロノーティクスを通して世界展開を狙っています。
東洋紡:国内第三位のメーカーです。「中空糸型逆浸透膜モジュール」を開発しています。塩素に強く汚染された海水でも高い性能を発揮します。サウジアラビアのラスアルカイル地区に建設された世界最大級の海水淡水化プラントには東洋紡の膜技術が採用されています。
水道管メーカー
「クボタ」や「栗本鉄工所」などがあります。クボタは1890年に創業し水道用鉄管による近代水道の設備に貢献しています。ヨーロッパ、アメリカ向けにも製品を販売しています。栗本鉄工所はクボタに次ぐ業界二位のメーカーで公共事業向けに製品を提供しています。下水道管の老朽化対策としてSPR工法が用いられます。「SPR工法」とは既設の下水道管内などで硬化塩化ビニール材をスパイラル状に貼り付ける管の更生工法です。
SPR工法の最大手が「積水化学工業」です。下水を流しながら施工が可能となり下水道管の補強や、耐震強度の向上に貢献しています。
ポンプメーカー
「荏原製作所」は国内外で高いシェアを獲得し、モノブランドで言えば「EBARA」の製品が最も有名です。ポンプをカスタムすることもでき水処理関連用途のほとんどすべてをカバーできます。「酉島製作所」は海外向けのRO膜用の高圧ポンプや取水ポンプで高いシェアを誇っている企業です。1960年代から水不足対策を行っており、海水淡水化装置用の高圧ポンプでは世界市場で約6割のシェアを占めるほどです。
電気設備メーカー
浄水場や下水道の電気設備機器や監視制御機器を提供しています。水分野では「明電舎」と「富士電機」です。明電舎は、産業用排水処理システムの提供や水道事業の維持管理の受託などのサービスを展開しています。また自治体システムの高度情報化にも積極的に取り組んでいます。富士電機でも水質管理、IT化による作業効率化、品質向上などを提供しています。水分野に関するデータをクラウド上に構築し水道事業体と電気設備メーカーの関係をより密接にし、事業を委託するケースが増加しています。
コンサルティング会社
行政などに対し、現状調査と課題の洗い出し、効率的な水道整備の提案などを行います。
「日水コン」は上下水道分野のコンサルティングに強い会社です。海外コンサルティングにも乗り出しています。「NJS」は下水道分野に強みを持っている企業です。エヌジェーエス・コンサルタンツを中心として海外戦略を行っています。
国外主要企業
ヴォエリオ・ウォーター
ヴォエリオ・ウォーターはフランス国籍の企業で、1853年に設立されました。
環境事業で世界をリードしているヴォエリア・エンバイロンメントの水事業分野を担っています。1879年には海外に子会社を設立しており、イタリア、スイス、ポルトガル、トルコなどに事業を拡大しています。近年では上海、ベルリンなどにある上下水道事業を担っており、グローバル企業になっています。地域別の売上比率ではフランス、ヨーロッパが7割を占めています。2002年には日本法人ヴォエリオ・ウォーター・ジャパンを設立し水処理プラントの運用保守契約を獲得しています。
ゼネラレル・エレクトリック(GEウォーター&プロセス・テクノロジーズ)
ゼネラレル・エレクトリックは成長戦略である「エコマジネーション」を提唱し、水事業を行っている企業を次々と買収し市場を拡大しています。海水淡水化事業を推進し中国の水ビジネス事業にも乗り出しています。GEウォーター&プロセス・テクノロジーズは3つの視点でソリューションを展開しています。一つ目はケミカル関連で、上水製造、微生物の繁殖、油水分離の悪化による生産性低下を防止するソリューションを提供しています。二つ目は膜・フィルター製品です。RO膜、ナノ膜のほか、耐熱膜や油水分離膜などを提供しています。三つ目は膜を使用した水処理に関する膜分離装置です。膜分離装置は水中の有機物を迅速に計測できる装置で、海水淡水化処理の指標となっています。
シーメンス(シーメンズ・ウォーター・テクノロジーズ)
1847年に設立されたドイツの多国籍企業です。現在は北米や中国の市場開拓に注力しています。中国では石油化学最大手のシノペックの精油所に排水処理を供給しています。アメリカでは、USフィルターと活性炭素メーカーなどの関連企業4社を買収し水ビジネスの基盤を固めました。現在のシーメンスは水処理より上下水道のIT化に力を入れています。
ハイフラックス
1989年に設立されたシンガポールの企業です。技術開発を重視しており水処理の膜の開発に成功しています。2001年にはシンガポール証券取引で上場し、海水淡水化事業で世界の市場を獲得しています。シンガポールは川がないため下水を再利用するなどで水の自給率を上げています。ハイフラックスの技術によって下水を飲料水にできるため世界中からその技術が注目されています。
水ビジネスの将来像
日本では「チーム水・日本」を結成し、産学官の知恵を結集して日本の技術と知恵を世界に発信すること、財政的な連携を行い世界の水の情報センターとなることに尽力しています。チーム水・日本には多くのチームが在籍し活動を始めています。日本は「技術で勝って、ビジネスで負ける」という状況にあります。水ビジネスで勝つためにはアイデアとスピードが絶対条件であり、入札以前の情報の入手や日本政府の外交努力、企業再編による規模の拡大をしていく必要があります。
水ビジネスは将来性がある!
今回は水ビジネスについて業界分析を行いました。水ビジネスが今後どうなっていくのかを知ることはできたでしょうか。水ビジネスにも多くの企業が携わっており、将来性に期待がされます。
また日本が世界のシェアを獲得していくには、斬新なアイデアと圧倒的なスピードが求められます。
ぜひ、この機会に、ご自身でも水ビジネスについて深く掘り下げてみてください。
一緒に水ビジネスの可能性を追求していきましょう!
参考文献
水ビジネスの動向とからくりがよーくわかる本(2017年1月7日第1版第1刷)
水不足によって日常生活に影響をきたす「水ストレス」 引き起こされる問題と水資源の現状(2024年8月29日閲覧)